
Presented by HiStory

ローカル線の列車が、カタン、カタンと小さく響く音を立てながら、田んぼの中を抜けてゆく。今日はこの地方にある小さな町の、再生された旧宿場町の絶景を取材する日だ。都心から在来線を3本乗り継ぎ、最後の乗り換え駅へ着いた。
私が掲げる「EcoHobby」。仕事だけじゃなくて、自分の趣味でさえも社会貢献に繋がっているという考え方、活動ポリシーだ。
取材活動では電車やバスなどの公共交通機関を積極的に活用し、現地へは可能な限り徒歩で向かうこと。公共交通機関を利用することは、CO2排出量の削減につながる。多くの人を一度に乗せて走れる電車は、個人がそれぞれマイカーで移動するよりも地球環境へのダメージが少ない。また、現地の交通機関を使って移動することで、その地域を体感することができる。あとでなんらかの媒体で発信する時も、写真やキャプションの臨場感が増す気がしていた。
廃線になってもおかしくない過疎地の地方ローカル線に乗る、電車の切符を買う、地元の食べ物を食べる、お土産を買って帰る。
私は環境活動家と名乗れるほど崇高な理念は持ち合わせていない。でも、ただ趣味で遊びに行く目的であっても、活動の中で少しでも地域や地球環境にも貢献したいという思いがあった。
降り立った駅は、ホームに人の気配がほとんどない。時計を見ると、次の列車が来るのは1時間半後らしい。こういう待ち時間も含めて、鉄道旅のリズムなのだと自分に言い聞かせて、駅前のベンチに腰を下ろす。
鞄から取り出したのは、さっき駅の小さな売店で買ったお弁当。店の軒先に「地元のコメと野菜を使っています」と手書きのポップがあった。中身は、炊き立てのようなツヤのあるごはんに、山菜の煮物と、地鶏の照り焼きが少し。それだけなのに、驚くほどおいしい。噛みしめるたびに、土地の空気が伝わってくるような気がした。
「こういうのが、取材の醍醐味かもしれないな」
取材先の最寄駅に向かう最後に乗った列車は、二両編成のローカル列車。車内は思ったより混雑していて、地元の高校生や買い物帰りらしいお年寄りに囲まれて、吊り革を握る時間が続いた。
列車を降りた。眼前に広大な草原が広がる駅のホームから、風に揺れる木々の音に耳を澄ます。スマホの画面越しじゃ、きっと気づけないものが、ここにはある。
取材先までは、駅から歩いて20分。暑さがじんわりと肌にまとわりついてきた。日陰の少ない道を進んでいると、何台かの車が横を通り過ぎる。窓を閉め切った車内で、きっとエアコンが効いているんだろうな・・・。思わず羨ましさがこみ上げる。けれど、自分の足で歩いていると、風に揺れる葉の音も、道ばたの草花も、地面の熱も、すべてがちゃんと伝わってくる。
やっとの思いで辿り着いた取材地には、期待していた以上の風景が広がっていた。川のせせらぎと、水を張った田んぼに映る空。遠くには、大きな山が霞んで見える。カメラのファインダーを覗きながら、ふと、心の中に湧き上がってくる想いがあった。
「こんな風景が、少しでも長く残っていてほしいな」
何かを変えられる自信はないけれど、少なくとも自分はこの景色を「好きだ」と感じたことを、忘れないようにしよう。だからこそ、自分のやり方で、今日も鉄道を使い、太陽で充電したバッテリーでカメラを回し、この瞬間を記録する。
取材が終わる頃には、汗でシャツが重たくなっていたけれど、心は軽かった。駅に戻ると、ちょうど帰りの列車がホームに入ってくるところだった。小さな車両に乗り込み、座席に身体を預ける。
窓の外を流れていく田園風景を眺めながら、静かに思う。
「たぶん、これで十分なんだ。EcoHobbyって、こういうことかもしれないな」
大げさな旗を掲げなくてもいい。自分の歩幅で、少しずつ選び続ける。その姿が、誰かの『何かのきっかけ』になるかもしれないと、ほんの少しだけ期待しながら──。