ジングルが静かにフェードアウトし、低くて落ち着いた声がスタジオの空気を満たす。
DJ高橋:
「はい、午前1時43分を回ったところです。今夜もお付き合いありがとうございます。こちらは『真夜中の独り言』、いつものように、都内某所のちっちゃなスタジオから、俺、高橋が一人でぽつぽつ喋っております。」
《椅子がきしむ音が一瞬入る。コーヒーを置く音。》
「でね、今夜の話題はドライヤー。そう、髪乾かすアレ。つい先日、新しいのに買い替えたんです。某国産メーカー製のやつで、値段は……まあ、ちょっと張りました。だけど、もうね、風が違う。音が違う。乾き方が違う。」
「今まで使ってたのは海外製の、評判も良いし安かったやつ。でも正直、俺の髪にはなんかこう、しっくりこなかったんだよね。パワーはあるけど、必要以上に熱いし、まとまりが悪い。けど、この国産のやつは、日本の気候、日本人の髪質、日本の住宅事情に合わせて作られてるって感じがするんだ。まるで、『あんたの髪、ちゃんと分かってるよ』って言われてるみたいにさ。」
「そういう製品、もっと増えていいと思うんだ。尖ったやつ。“世界で一番売れる”じゃなくて、“あんたのために作った”ってやつ。」
《少しの間。鼻から息を吸い込んで、今から言うことへの、溜めの時間。》
「たとえば、イヤホン。俺の友人が海外製のやつ使ってて、『耳から落ちやすい』ってこぼしてたんだけど、よくよく聞いたら、耳の形の平均値が欧米基準で設計されてるらしい。だったら、日本人の耳にフィットするイヤホン、もっと作ればいいのにって思う。もしくは、日本の住宅みたいに壁が薄い環境向けに、夜中でも家族に迷惑かけない静音家電とかさ。」
「俺はね、グローバル化が悪いとは思ってないよ。安くて良い製品が世界中で手に入るのはすごいことだ。けどさ、“誰にでも合うもの”って、裏を返せば“誰にもぴったりじゃない”ってこともあるんだ。」
「地産地消って、農業だけの話じゃない。俺たちの生活に、もっと深く関われる考え方だと思うんだよね。自分の身体、自分の文化、自分の気候に合わせて、“これが一番フィットする”ってモノを選ぶ。多少高くても、それで毎日がちょっと快適になるなら、十分元は取れる。」
「尖ってていい。むしろその方が、刺さる相手には深く刺さる。大量に売れなくても、ちゃんと届くべき人に届く。そんな製品やサービス、もっと評価される時代が来てほしいな、って思うわけです。」
《数秒の沈黙。どこかあたたかい空気。》
「……ま、俺の独り言なんで、共感してくれたら嬉しいです。さて、ちょっとメール読んでみようかな。」
メールコーナー
DJ高橋:
「こちらは……ラジオネーム『炊き立ての米派』さんから。」
《紙をめくる音。》
『高橋さんこんばんは。私も最近、ちょっと高かったけど国産の炊飯器を買いました。毎日食べるご飯が、ふっくら甘くて、お米の香りがちゃんと立ってる。海外生活が長かったんですが、「ああ、日本に帰ってきたなぁ」って感じました。ドライヤーの話、すごく共感しました。便利や安さだけじゃない、“自分に合ってるかどうか”って大事ですね。』
DJ高橋:
「……いやぁ、いいですね。“便利じゃなくて、しっくりくる”。それ、大事にしていきたい感覚ですよね。『炊き立ての米派』さん、ありがとう。」
エンディング
DJ高橋:
「さて、そろそろ時間です。明日も、なんとなく合わないモノに囲まれてちょっと疲れたなーって思ったら、思い出してみてください。“俺に、私に、ちょうどいいモノ”。それは、きっと近くにあるかもしれません。」
「では、またこの時間にお会いしましょう。おやすみなさい。」
《エンディングジングルが静かに流れ始める。》
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