第一次TCG情勢 – HLHS0033

緊迫の取引
放課後の教室。机の間を抜ける夕陽が、まるで戦場の煙を照らすように斜めに差し込んでいた。
「今日が本番だな」
プレイヤーA――名を土井司(どいつかさ)という。理論派にして、デッキ構築の鬼。彼の戦略性と経済的なカード展開は、まるで精密機械のようだ。
対するは、プレイヤーB――不羅英路(ふらえいじ)。感覚派のプレイヤーで、政治的な駆け引きや意外性のあるコンボで有名。守りの美学を知る男。
ふたりは、学園最強の称号を懸けて、ついに相まみえた。
スタンバイ:構築の静寂
司はは黙々とカードを揃えていた。
鉄、石炭、機械、戦車……資源を統合し、連続展開できるよう設計された、産業・軍事特化型デッキ。
彼が選んだキーカードはこうだ:
カード名:「機械化経済圏」
カードテキスト:「デッキ内の産業カードの展開コストを1減少。ターン開始時に追加で1リソースを得る。」
カード名:「火薬庫の同盟」
カードテキスト:「同盟カードが3枚以上ある場合、全軍事カードの攻撃力を+2する。ただし、1ターンごとに外交判定を行う。」
一方、英路の手元にも静かにカード戦力が揃えられていた。
カード名:「中立と連携」
カードテキスト:「他プレイヤーの同盟カード1枚をコピー。防御カードの効果が倍加される。」
カード名:「国際世論の風」
カードテキスト:「相手が外交カードを発動するたび、イベントカードを1枚手札に加えられる。」
「準備はいいか?」
「対戦に、準備が十分だったことはないさ」
互いに不適な笑みを交わし、教室の卓上は今、戦場になった。
ターン:開戦の号砲
バトル開始――教室の机を挟んで、ふたりの戦争が始まった。
司は序盤からエンジンをかける。
「ターン1、展開! 《機械化経済圏》+《産業三角貿易》!」
カードが次々に展開され、リソースが倍々に増える。強力なカード《機械化経済圏》により、産業カードの展開コストを下げながらリソースまで稼げる、司が得意な高速展開戦法だ。
「戦車製造ライン、稼働!」
カード名:「鉄の連帯」
カードテキスト:「連続で産業カードを3枚以上展開した場合、軍事カード『戦車師団』を無償召喚できる。」
盤面上はあっという間に、司陣営の攻撃要因である戦車師団が場を埋めた。まるで、砲台が英路をロックオンしているかのような圧のある盤面だ。
一方、英路は冷静に対応する。
「では、こちらも応じよう。《国境協定》+《海上封鎖》を展開。」
カード名:「海上封鎖」
カードテキスト:「相手のリソース取得を半減。自ターン中、1度だけ攻撃カードを無効化できる。」
《国境協定》によってデッキからサーチした《海上封鎖》の発動によって、司の戦車師団の砲撃ダメージを軽減した。
一進一退の攻防が続く。だが、第3ターン目――司は、ついに勝負カードを切る。
「切り札だ。《シュリーフェンプラン》、発動!」
カード名:「シュリーフェンプラン」
カードテキスト:「相手が防御カードを2枚以上場に持っているとき、戦車師団すべてがダブルアタックになる。」
英路のデッキは、序盤に相手の先制攻撃を誘い、数々の防御カードによってリソースを消費させることにより、後半に有利な戦況へ持ってくのが基本戦術だ。だが、《シュリーフェンプラン》は、防御カードが多いデッキにとって厄介な強力カードだ。
圧倒的な攻勢により、英路の防御前線が崩れ始める。
ターン:戦線の果てに
司の攻撃により、英路の拠点カードが次々に削られていく。
「これが、力だ。リソースを制する者が、戦場を制する……!」
だがその時、英路は静かに1枚のカードを場に置いた。
「君は築いたものが、崩れる音を聞いたことはあるか?」
カード名:「民衆の蜂起」
カードテキスト:「リソース差が5以上ある時、自分の失った拠点カードを1枚回復。相手の軍事カード1枚を無効化。」
そして――
「《新たなる夜明け》をドロー。発動!」
カード名:「新たなる夜明け」
カードテキスト:「手札を1枚捨てて発動できる。自分のデッキから支援カードを3枚選んで手札に追加できる。」
状況が一変する。戦況は互角へと戻った。
ほぼ互角の戦い。リソースはお互いにほぼ消費し切っていた。しかし、序盤から高速展開をする司のデッキタイプは、勝負が長引くほどより不利な展開を強いられることになる。
司はどうにか巻き返しを考えていたが、すでに切れるカードも限定的だった。一方の英路も、毎ターン圧倒的な攻勢を仕掛けられ、リソースの不足が深刻化していた。
ターン:そして、二人は友になる
最終ターン。勝負はつかず、両者のデッキも、やれることが尽きかけていた。まさに泥沼化である。
「これが最後の切り札だ!」
司はあのカード《火薬庫の同盟》を発動した。全体の攻撃力を増し、バトル場に今出ている最後の戦力でアタックをかける。
だが、これは司の大きな判断ミスだった。いや、むしろ苦肉の策だったのだろう。このカードを使用するということは、同盟カードが3枚以上ある状況を意味し、これは英路のあの切り札が使用できる最も良い条件下なのである。
「ならば俺は、《中立と連携》を発動し、その同盟カード《火薬庫の同盟》をコピーする!」
つまり、司の戦力と同じ分の値を上昇した英路の戦力とでは、結局相打ちになってしまう。この最後の攻撃宣言により、互いの盤面からは全ての戦力が消滅した。
司は手札を置いた。
「……もう、充分だ。お前の『国際世論』に、俺の『火薬庫』は飲み込まれた。だが、誇れる戦いだった」
英路はうなずく。
「君の『鉄の連帯』がなければ、ここまで燃える試合はできなかった」
互いの手札を伏せ、最後の握手を交わす。
勝敗を超えた先にあったのは、「理解」という名の同盟だった。
エピローグ:教室という戦場で
その後、司と英路は共同でTCG部を立ち上げ、他校との交流戦を開くようになった。
校内最強のふたりが衝突したカードバトルの顛末は、瞬く間に校内に知れ渡っていた。最強の2人が同盟を結ぶという展開に、TCGファンであるクラスメイトたちは嬉しそうだった。
ふたりが学んだのは、「力」とは争うためのものではなく、理解のために使うべきであるということだった。
「僕たちがカードを通して戦った意味は、勝つことじゃない。違いを認め合い、その中で共に歩む可能性を見つけることさ」
夕陽の差す教室。二人が認め合った大切なカードデッキは、もう争いの道具ではなく――
未来への地図になっていた。