地球と共に走り続ける未来の鉄道技術

交通と地球環境問題の関係性は切り離せない話です。

自動車も世界的な動きとして、電気自動車(EV)や、ハイブリッド車など、従来の化石燃料を燃焼する仕組みのエンジンからの脱却を推進しています。

この流れは日本では鉄道車両の動力源に対しても波及していて、最近では電動発電機でモーターを稼働させる仕組みや、電線がある場所で充電して走行するもの、発電機とバッテリーを組み合わせたハイブリッド車両なども登場しています。

鉄道利用での移動は、一度に大量の人々を乗せて地域を移動させることができるので、各々がマイカー利用で移動するよりも、元々環境負荷に良い移動手段です。

その移動手段である鉄道車両自体も省エネルギー化や化石燃料依存からの脱却が実現すれば、路線網が国土に張り巡らされている日本での交通事情からすれば、かなり大きなCO2削減につながる可能性を秘めています。

JR東日本では、現行で3つのタイプの新しい駆動方式車両が導入されていて、さらに将来に向けて、水素燃料による駆動車両を試験しています。

「GV」「EV」「HB」と言った形式の新駆動方式車両について解説します。この記事で、近い将来、パンタグラフから直接電源を取ってモーターを回す電車に代替するかもしれない未来の電車への取り組みに触れていきます。

そもそも、なぜ「新しい動力方式」が必要なのか

鉄道といえば、架線から電気を取り入れてモーターを回す「電車」を思い浮かべる人が多いでしょう。

実際、都市部を走るJR東日本の通勤電車の多くはこの方式です。線路の上に張られた架線から電気を取り込み、その電力をモーターに送って車輪を回します。

一方、日本全国の鉄道路線すべてに架線が張られているわけではありません。

地方のローカル線などには「非電化区間」と呼ばれる、架線のない路線があります。こうした路線では、これまでディーゼルエンジンを搭載した「気動車」が活躍してきました。

ここに、鉄道の環境問題を考えるうえで一つの課題があります。

電化すれば電車を走らせることができますが、電化には架線や変電設備など、大規模な地上設備が必要になります。列車の本数や利用者が比較的少ないローカル線にまで、すべて同じような電化設備を整えることが必ずしも効率的とは限りません。

そこで考えられたのが、「架線がないなら、車両側で電気を作ればいい」「電化区間で電気をためて、架線のない区間を走ればいい」「エンジンを使う場合でも、電気モーターを組み合わせて効率を高めればいい」という発想です。

JR東日本が導入している「GV」「EV」「HB」は、まさにこの考え方から生まれた車両です。

外観だけを見ると普通のディーゼルカーや電車に見えるかもしれません。しかし、その車両の床下や屋根の下では、従来とは異なるエネルギーの使い方が行われています。

「GV」「EV」「HB」3つの方式を簡単に理解する

まずは、それぞれを難しく考えず、「どこから電気を持ってくるのか」という視点で見てみましょう。

GV―エンジンで発電して、モーターで走る

「GV」の代表が、GV-E400系です。

GV-E400系は、JR東日本が初めて導入した「電気式気動車」です。ディーゼルエンジンを搭載していますが、そのエンジンが直接車輪を回すのではありません。

エンジンで発電機を動かし、そこで作った電気によってモーターを回し、車輪を動かします。

つまり、「ディーゼルエンジン → 発電機 → 電気 → モーター → 車輪」という流れです。

自動車でいえば「エンジン車」なのに、最終的にタイヤを動かす部分には電気モーターを使っているようなイメージです。

従来の気動車では、エンジンの力を機械的に車輪へ伝えるため、エンジンと車輪をつなぐ機械的な駆動装置が必要でした。

GV-E400系では、この部分を電気式にすることで、電車で培われてきた省エネモーター駆動の技術を気動車にも取り入れています。

2021年には「GV-E197系」車両も導入され、それまでの重量級の電気機関車やディーゼル機関車の役割を後任し始めました。

もちろん、ディーゼルエンジンを使用するため、完全に化石燃料から脱却した車両ではありません。

しかし、従来型の気動車とは異なる電気駆動方式を採用することで、非電化路線を走る車両の新しい選択肢になっています。

GV-E400系:JR東日本オフィシャルサイト

EV―電車なのに架線がない場所を走れる

「EV」と聞くと、自動車の「Electric Vehicle」を思い浮かべる人も多いでしょう。

JR東日本のEV-E301系、EV-E801系も、まさに「電気で走る」ことが大きな特徴です。

ただし、自動車のように最初から最後までバッテリーだけで走るというわけではありません。

この車両には大容量の蓄電池が搭載されています。

電化区間ではパンタグラフを上げて架線から電気を取り込み、その電気で走りながら蓄電池も充電します。そして架線のない区間に入ると、パンタグラフを下げ、蓄電池にためた電気でモーターを動かして走ります。さらに、ブレーキをかけたときに発生する電気も蓄電池に戻すことができます。

イメージすると、「架線 → 蓄電池 → モーター → 車輪」という仕組みです。

これは非常に分かりやすい発想です。

「架線のない区間のために、わざわざディーゼルエンジンを積むのではなく、電化区間で電気をためて持っていけばいい」というわけです。

2014年に烏山線で営業運転を開始したEV-E301系「ACCUM」に続き、2017年には男鹿線にEV-E801系が登場しました。EV-E801系は交流電化区間と非電化区間の両方を走行できる車両です。

この方式の面白いところは、「電化するか、しないか」という二者択一ではなくなったことです。

架線を張らなくても、車両自身がエネルギーを持っていれば、電気で走ることができる。

鉄道の電化という考え方そのものを、少し違った角度から実現した車両だといえるでしょう。

EV-E301系:JR東日本オフィシャルサイト

HB―エンジンと蓄電池を組み合わせる

そして「HB」が、ディーゼルハイブリッド車両です。

代表的な車両には、仙石東北ラインを走るHB-E210系や、五能線などを走るHB-E300系があります。

これは名前の通り、「ディーゼルエンジン」と「蓄電池」を組み合わせたハイブリッド方式です。

例えばHB-E300系では、発車時に蓄電池の電力を使い、加速時にはディーゼルエンジンで発電した電力と蓄電池の電力を組み合わせてモーターを動かします。

さらに重要なのが、減速するときです。

通常なら、列車が持っている運動エネルギーはブレーキによって熱などとして失われてしまいます。しかしハイブリッド車両では、減速時にモーターを発電機として使う「回生ブレーキ」によって、そのエネルギーを電気に変えて蓄電池にためることができます。

つまり、「エンジン → 発電 → モーター」だけではなく、「ブレーキ → 発電 → 蓄電池 → 次の加速」というエネルギーの循環が生まれます。

JR東日本によれば、HB-E210系ではハイブリッドシステムによって回生エネルギーを有効利用するとともに、排気ガス中の有害物質を低減するエンジンを採用しています。

「使ったエネルギーを、できるだけ捨てない」。

これがハイブリッド車両の大きなポイントです。

HB-E210系:JR東日本オフィシャルサイト

そして「水素」へ――鉄道車両はどこまで変わるのか

GV、EV、HBを見ていくと、JR東日本が取り組んでいる方向性が少し見えてきます。

GVは、エンジンで発電してモーターを動かす。

EVは、電化区間で電気をためて、非電化区間をバッテリーで走る。

HBは、エンジンと蓄電池を組み合わせ、ブレーキで生まれるエネルギーも利用する。

そして、その先にある技術として研究・開発が進められているのが「水素」です。

JR東日本は、水素を燃料とする燃料電池と蓄電池を組み合わせた水素ハイブリッド電車「HYBARI(ひばり)」、FV-E991系を開発しています。

この車両では、水素を燃料電池に送り、空気中の酸素との化学反応によって電気を作ります。そして、その電力と蓄電池にためた電力によってモーターを動かします。さらに、ブレーキ時の回生電力も蓄電池に蓄えます。

簡単に言えば、「水素 → 燃料電池 → 電気 → モーター」という仕組みです。

しかも、HYBARIは単純に「水素だけで走る車両」ではありません。

燃料電池と蓄電池を組み合わせることで、発電した電力を効率よく利用し、ブレーキ時に発生する電力も再利用するという、これまでのハイブリッド車両で培われてきた考え方も取り入れています。

JR東日本は現在もHYBARIの走行試験・評価を進めており、2026年度のサステナビリティ戦略では、2027年度末を目途とした営業運転開始を掲げています。

水素は小さな火元で引火・爆発しやすい可燃性が高い燃料であるため、専用の貯蔵、管理、補給設備が必要で、車両開発と並行して地上側の施設建設も慎重に研究しながら進められているプロジェクトです。

ここまで来ると、鉄道車両の動力方式は「電車か、気動車か」という昔ながらの分類だけでは語れなくなってきますね。

「電車=架線」ではなくなる未来

鉄道車両の動力方式を考えるとき、これまでは「電車」と「気動車」の違いが非常に分かりやすい境界線でした。

架線から電気を取って走るのが電車。ディーゼルエンジンで走るのが気動車。

ところが、GV、EV、HB、そしてHYBARIへと技術を追っていくと、その境界線が少しずつ変化していることに気づきます。

エンジンで発電してモーターを回す。

架線から電気を取り、蓄電池にためて走る。

エンジンと蓄電池を組み合わせる。

水素から電気を作り、蓄電池と組み合わせて走る。

共通しているのは、最終的に「モーターを効率よく動かす」という方向へ技術が集約されていることです。

そして、これは単なる「珍しい新型車両」の話ではありません。

JR東日本は「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を掲げ、2050年度のCO2排出量実質ゼロを目指しています。その取り組みの中で、ハイブリッド車や蓄電池車の導入、水素エネルギーの活用などを進めています。

もちろん、新しい車両を導入すれば、それだけで鉄道が完全に脱炭素化するわけではありません。車両を製造するためにもエネルギーが必要ですし、蓄電池や水素をどのような方法で作るのかによっても、環境負荷は変わってきます。

それでも、これまでディーゼルエンジンに頼ってきた非電化路線に、蓄電池やハイブリッド、さらには水素という新しい選択肢が生まれたことには大きな意味があります。

鉄道は、一度に多くの人を運ぶことができる交通機関です。だからこそ、その一台一台の車両が消費するエネルギーを少しずつ減らしていくことは、長い目で見れば大きな意味を持ちます。

いつの日か、地方のローカル線を走る列車を見て、「ディーゼルカーが走っている」と思ったら、実は蓄電池で走っていた。あるいは、水素から作った電気でモーターを回していた。線路の脇から支柱は無くなり、電線は撤去され、省エネルギーに特化した車両の窓から車窓を眺める。

そんな光景が当たり前になるかもしれません。

鉄道車両の進化は、単に速く走る、快適に走るという方向だけではありません。

「どんなエネルギーで走るのか」

「使ったエネルギーをどうやって無駄なく利用するのか」

「化石燃料への依存をどう減らしていくのか」

これらを考えながら車両を見てみると、いつも利用している列車の姿が、少し違って見えてくるのではないでしょうか。

「GV」「EV」「HB」という車両形式に込められているのは、単なる新しい鉄道技術ではありません。

それは、鉄道という大量輸送機関を、これからの時代の地球環境に合わせて進化させていくための、一つ一つの試みなのです。